お琴 |
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土方歳三が京都へ行く前に出会った女性で土方歳三の許婚だったと言われている人です。
美人で評判の女性で、土方歳三も彼女の事を気に入っていたようです。
親族がこの件で盛り上がり、結婚と言う所まで話が進んだ所で土方歳三は「私は武士になって名を上げたい。だから今ここで、このまま所帯を持つ訳にはいきません。もう少し間、私の身を自由にしておいて欲しい。」
と言って彼女との結婚を断っています。
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有名な一句
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土方歳三は、その男前の容姿から京都ではモテまくったと言うのが通説です。
しかし、モテると言う概念は一般的で広すぎる意味の言い方なので"愛する相手がいる事"とはちょっと意味合いが異なります。まして、芸妓にモテたというのは全く意味が違ってきます。人は名声・金・権力があればどんな人間でもチヤホヤされるものです。
事実、土方歳三も手紙で「我々を報国の有志と目がけ、女達が近づいて来ます。」と言っています。もちろん、事実を率直に言ってしまえば芸妓を抱く事くらいはあった事でしょう。しかし、それと愛する人とは全くの別物のものとみるべきでしょう。
さて本題です。
ここから先はあくまで個人の見解ですが…、
もしかして土方歳三は、お琴の事をずっと想っていたんではないでしょうか?
そして、それがこの字余りの句に現れているような気がします。 |
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残されている土方歳三(豊玉)の俳句は、どれも上手に句を詠むと言うよりもその瞬間、瞬間で自分の気持ちをそのまま語呂を合わせて俳句の形にしているという物ばかりです。
それらは、ヘタな句と言われる所以(ゆえん)でもありますが、情景的な客観描写ではないものが多いので、裏を返せばその時々の彼の気持ちをストレートに伺う事ができるものが非常に多いとも言えます。
それを踏まえてこの句をよく考えてみると、
「なぜ、わざわざ字余りになってまでも 『しなければ迷わぬ』という、この言葉を選んだのか?」という事です。 |
当たり前に考えれば、せめて『 しれば迷い しらねば迷わぬ 恋の道 』としたくなるところでしょう。
こうするのが前後ですっきりまとまり、語呂もよく聞こえます。
(実際に彼の句で「しれば迷い しらねば迷ふ 法の道」という、この「恋の道の句」での気持ちを、何ともごまかす為の様な、どうでもいい様な句があり、そちらではスッキリ気持ちの良い語呂で「しらねば」という言葉を使っています。)
しかし、この恋の句では、「しらねば」ではなく「しなければ」という言葉を使っています。
彼の気持ちとして、わざわざバランスの悪いこの言葉にしたかった理由が必ずあるハズです。 |
では、その言葉の真意を分析してみましょう。
「しらねば」では意味が一般的になります。もしも、この言葉を使ったなら過去の経験や記憶も含める事の出来る広い意味での恋愛についてのいち意見的な立場になります。
でも「しなければ」となると、今誰かに恋している進行形の意味合いが強く浮き立ってきます。
「あーあ、今ここで恋なんかしなければこんなに迷ったり、苦しまなくていいのになぁ…。」
というニュアンスが強く感じられるようになります。
つまり、この句は別の書き方をすると「すれば迷い しなければ迷わぬ 恋の道」とする事ができるのではないかと考えます。 |
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恋心と小さな苦悩 |
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この俳句は、土方歳三が京都に行く時にまとめたと言われています。
彼はお琴の事を愛していたでは? と見てとれるポイントでもあります。
そして、それを裏付けるような事実がひとつあります。
上記にも述べたように、土方歳三とお琴の縁談が持ち上がり、土方歳三が「自分は名を上げたいから、結婚して所帯を持つような事は勘弁して欲しい。」と話した後、お琴が
"今、彼と結婚はしないが彼の許婚になる" という事実です。
さて、ここに大きな意味があります。
もしも、親族が持ち掛けた縁談で土方歳三にその気がなく、きっぱりと関係を断りたいのであれば、縁談がナシになった後、彼女が許婚と言う立場になるのは不自然だという事です。
事実、土方歳三の野心を聞いた親族の人々は「彼のその言葉に感激し、彼の意思を尊重した。」と言います。
であれば当然、土方歳三にその気がないのならばこの縁談もそこまでで、お琴の件もさよなら・バイバイとなるはずです。命を賭けてこれから飛び出そうとする男の足かせになるような許婚という箍をわざわざはめたりはしないでしょう。
しかし、そうはなりませんでした。
その後、お琴が彼の許婚になったという事は、「土方歳三が彼自身の意思で彼女との縁を切ってしまいたくなかったから」と考えられるのではないでしょうか。
そして、土方歳三の詠んだこの句。繋がっているように見えますね。
小さな頃から夢見た自分の野望と愛する人。"どちらを選ぶか選ばぬか"そういう単純な選択では解決しない問題。
「愛する人に出会ってしまった。出来る事なら彼女を幸せにしたい。しかし、おれにはどうしても捨てられない夢がある…。今ここで恋などしなければ迷うことなどあり得なかったのに。」
そんな風に苦悩する彼がそこにいたのではないかと思います。
ロウソクの炎が消えそうに揺らぐ様な、ものすごく繊細に感じられる心の句にも見てとれます。
独りで考え込んで、ため息ついてる彼の姿が目に浮かびませんか?
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見解に関する参考史実は、限りなく現存する記録に忠実に従うように努めています。
しかし、当時の証言や言動などに関しては、誰にでも理解でき楽しめるように、わざと難しい説明や固い言い回し、昔の言葉使いや表現などをせずに現代口語に変えて記載してあります。
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